日本企業のためのロシア専門の会計コンサルティングファーム

ロシアビジネスQ&A / Q&A : Business in Russia

はじめに

ロシアCIS諸国は、クロスボーダー化の進む世界経済の中でも異質な存在となっています。これは、例えば

  • WTO(世界貿易機関)に加盟したが、依然として保護主義的な関税政策が残っている
  • 国家資本主義とも言える国益を踏まえた資本主義経済を形成している
  • 旧共産圏独特の官僚主義的な要素を色濃く残している

 といった理由によるものと考えられます。

このような特殊性は一方で、外国企業の進出に際しての参入障壁ともなります。


そこで以下では、ロシアCIS諸国特有とも言える様々な事項について、Q&A形式でまとめてみましたので、参考にして頂ければ幸いです。

Q1: ロシア進出にあたってはどのような事業形態を選択するのが良いのでしょうか?

A1:

ロシア進出にあたって、現地の事業形態の選択は重要な意志決定事項の一つとなります。

例えば駐在員事務所を設立する場合、営業行為を行わない事務所として、西欧諸国やアジア諸国においては通常は簡単な届け出書類の送付のみで設立が可能となりますが、ロシアにおいては、駐在員事務所であっても登記にあたって相当な時間と労力を費やす必要があります。また、ロシアにおける法令遵守業務を遂行するにあたっては、膨大な書類の作成と署名、更には当局による監督といった事務手続上の負荷が高いのが特徴です。

一般的に駐在員事務所では、営業行為を行わないため税務上は最低限の法令遵守で済むのがメリットとして考えられます。一方、ロシア国内で営業行為を行う場合には、支店か現地法人(OOO or ZAO)の形態を取ることが一般的です。支店、現地法人で認められる活動範囲にそれほど大きな差異はありませんが、例えば自社のロシア拠点名義で輸入を行いたいような場合には支店の場合、一定の制約が生じます。一方で、事業運営上の法令遵守事項については、特に外国為替と会計の二つの分野で大きな差異があり、結論として現地法人形態の場合の事務管理負荷が増大します。

従って、進出時の段階で十分なロシア事業計画の検討を行い、どのような活動を現地で行う予定かを明確にすることで、最適な事業形態を選択することが、特に進出後の事業運営コスト、強いてはロシア事業の採算に大きな影響を及ぼすことになります。


Q2: ロシアの税制の特徴を教えて下さい

A2:

ロシアの税制は、VAT(付加価値税)の制度導入をはじめ、基本的には欧州(EU)の税制に近い法規定となっています。旧共産圏であった東欧諸国は、90年代は現在のロシアに近い税制を採用していましたが、2000年以降、EU加盟を前に大幅な税制改正を実施し、現在は西欧諸国と殆ど同じ税制となっています。一方で、ロシアCIS諸国はEUによる制約を受けることがないため、特に運用面では形式主義を重んじる風潮や許認可や書類が多いといった面で依然として旧共産圏の面影を色濃く残しています。 なお、ロシアの税務署は日本の税務署と異なり、日本で言う税務署と法務局が一体化した巨大官僚組織です。ソ連時代には、税務警察と呼ばれる組織もあったと言われており、企業の徴税及び監督に強大な権限を有しています。従ってロシアビジネス成功のためには税務リスクを軽減することが非常に重要となります。


Q3: 中国ビジネスと比べてロシアビジネスの相違点は?

A3:

中国ビジネスとロシアビジネスでは事業管理の観点からは共通点が多いと思います。

特に現地企業の法令遵守意識の低さや当局による許認可事項が多いといった面は両国に共通する問題点として考えられます。また、現地でビジネスを構築していくうえで、個人的な人的ネットワークが重要である点や程度の差はあれ債権回収が容易ではない点は共通しているのではないかと思います。

誤解を恐れずに言うとすれば、両者の相違は両国にあるのではなく、日本企業(或いは日本人)自身が内に持っているイメージであったり文字等の表面的な違いにいるものが大きいのかもしれません。現在、中国を中心にアジア諸国への日系企業の進出が盛んですが、中国への進出経験は多くの面でロシア進出の際にも活かせるのではないかと思います。是非、中国での経験をベースに次はロシアへの進出を検討される日系企業が増える事を期待しています。

 

Q4: CIS諸国の税制の特徴について教えて下さい

A4:

CIS諸国(ウクライナ、カザフスタン、ウズベキスタン他)の税制は、歴史的な関係もあり、旧ソ連の法制が引き続きベースとなって引き継がれているのが現状です。そのため、ロシアの税制に近い内容となっています。また、ウクライナでは駐在員事務所登記が認められないなど、各国独自の規定も存在しますので留意が必要です。上述のとおり、各国の税制はロシア法に近い内容となっていることや言語の問題などから、日系企業はロシアを中心にCIS諸国に駐在員事務所や支店を展開しているケースが多いように思われます。但し、現地での実務運営上は、ロシア以上に当局に官僚主義的な要素が強いケースが散見され、多くの許認可や書類の作成が必要となる傾向があります。


Q5: ロシアでの債権回収手段について教えて下さい

A5:

ロシアでの債権回収は容易ではありません。

以下幾つかのケースに分けて債権回収方法について説明します:

  • 債権に対応する担保を設定している場合

この場合には、債務不履行に際して債権者(日系企業)は担保権の実行を行うことが可能ですが、裁判所による競売手続を経る必要があり、迅速な債権回収を図る事が難しい現状となっています。この点に関し2009年より法令改正があり、契約書上に債権者が裁判所による競売手続を経ることなく直接担保物件の処分が可能であるとの条項を付せば、原則として直接担保物件の処分が可能となりました。しかしながら、実際には債務者が債務不履行となる際には十分な担保価値を有していないことも多く、迅速且つ有効な債権回収手段は、依然として前金による取引条件等信用取引を避ける以外は見当たらないのが現状です。

  • 担保設定をしていない場合

この場合は、債権回収が更に難しくなります。実務上は、①債務者との交渉によりリスケも考慮に入れ、長期間での回収を図る、②法的手段(仲裁、訴訟)により債権回収を図る、③債権回収業者へ売却する、といった方法が考えられます。実際のところ②、③の方法は少額債権の場合には、手数料率を考慮すると割に合わない事が多く、できる限り①の方法をベースに回収を進める事が現実的ではないかと思われます。尚、そもそも契約書自体を締結していないような場合には、債権回収は非常に難しくなります。

 

Q6: ロシアの外為規制で注意しないといけないことは何ですか?

A6:

ロシアでの外国為替取引については2006年に大幅な緩和があり、現在は比較的自由となっています。但し、居住者が非居住者に対して、外貨で行う、輸出入取引や役務提供取引等の一定の取引については、「取引パスポート」と呼ばれる書類を取引毎に入手する必要があり、取引対象となった契約書を銀行へ提出が要請される場合があるなど、手間と時間がかかる点には注意が必要です。

Q7: ロシアの税務調査について教えて下さい

A7:

ロシアの税務調査には以下の二つの形態があります。

  • 机上調査(デスクトップオーディット)

申告書等の資料をもとに行われる税務調査。通常申告日から3か月以内に実施されます。

現地拠点設立後、数年間税金を納付していない場合やVATで還付ポジションとなったような場合に実施される事が多いです。通常は税務署より書面が送付され、原則として受領後10日以内に回答を行う必要があります。

  • 実地調査(フィールドオーディット)

納税者の所在地にて書類の閲覧や所有物の調査等を行う税務調査。実施期間はまちまちですが数か月から半年近くに及ぶ場合もあります。実地調査が終わると、納税者に調査終了通知が発行されるとともに、2か月以内に調査結果通知書が発行されます。納税者は調査結果通知書受領日から15日以内に、書面での不服申し立てを行う事ができます。

尚、ロシアでは上記の税務調査の結果、税務当局から多額の更正通知を受け、税務訴訟となるケースが依然として散見されます。税務訴訟での原告(納税者)の勝訴率は一般的に高い反面、手続に長期化を要する点及びそれに伴い訴訟費用が発生する点には留意が必要です。

Q8:ロシア国内で拠点を持たずに役務提供することは可能ですか?

A8:

短期ベースであれば原則可能ですが、色々と注意事項があります。

短期ベースでの案件であれば、原則としてロシア国内で現地法人や支店を持つことなく、日本企業が役務提供することが可能です。但し、例えば現地代理店の事務所内に専門の机を持ち、継続的に出張により役務提供を行う場合には、ロシア税務当局にPE(税務用語で恒久的施設と言います。一種の支店です)認定され、ロシア国内源泉所得に対して課税される可能性がありますので注意が必要です。

また、ロシア現地で駐在員事務所を運営している場合であっても、ロシア代理店に対する販売支援や本社以外のグループ企業(例:欧州グループ会社)からの依頼に基づきロシア国内で市場調査等の役務提供を行っている場合には、営業行為として当局より課税される可能性があります。

尚、VAT(付加価値税)の対象となる役務提供の場合には、事実上18%のロシアVATは回収できないため、多くの場合、役務提供を行う日本企業のコストとして計上することになります。

以上のようにロシアにおける役務提供については、留意が必要な税務上の懸案事項がありますので、拠点を持たずにロシア国内で役務提供を行う場合には、事前に専門家と相談される事をお勧めいたします。


Q9:ロシア企業の与信調査を行う際の留意点を教えてください

A9:

ロシア企業の財政状態や経営成績の実態を与信調査を通じて把握することは、難しいのが現状です。

これは、ロシアにおいては過度な節税や複数の関連会社間での取引を通じた利益調整が行われている事が多く、特定の個別企業の決算書類を見ただけでは実態が掴みずらいためです。

また、現在ロシアでは連結決算が制度化されていないこと、税務を意識した会計処理が採用されていること、更に法定監査についても罰則規定が軽微であるため、法定監査を受けない現地企業も依然として散見される、といった現状もあり、外部からの実態把握を更に難しくしています。

現在、ロシアでの与信調査に利用される情報は、欧米系のデータベース(例:Dun&Bradstreet社の提供する報告書等)が多いかと思われますが、利用する際には、上記の事項について考慮に入れるとともに、必要に応じて売上高利益率や人件費率を計算し、同業他社や業界平均と比べ著しい差異がない事を確かめることで、財務数値の信頼性を担保することが肝要です。

尚、直接貿易による債権管理の枠を超え、海外直接投資(現地企業への出資、買収、合弁会社設立)といった、リスクの高い投資を行う場合には、通常の与信調査では不十分ですので、外部専門家によるデューデリジェンス等を実施し、現地ロシア企業の財務状態の実態を把握することが肝要です。

Q10:本社費をロシア支店に配賦したいのですがロシア税務上は認められるのでしょうか?

A10:

事前に十分な準備をすればロシア支店の法人税法上も損金算入が可能です。

ロシア支店の販売促進活動や経営管理活動のサポートを本社が行う対価として、本社より一定の金額がロシア支店に費用として付け替えられる処理(本社費の配賦)は日露租税条約でも認められており、広く日系企業の間で行われています。本社費の配賦は日本の法人税の観点からは、日本本社の適正な課税所得計算の観点から必要な手続ではありますが、一方で賦課されるロシア支店においてロシア法人税法の観点より損金として認められるか否かは別の話であり、実務上は税務調査時などに大きな問題となります。

詳細な説明は割愛しますが、一般的にロシアにおいて本社費の配賦を税務当局から文句を受けずに損金処理するためには以下のような条件を満たしている必要があります。

1.本社で行ったサポート活動が実際に行われ、更にロシア子会社の収益獲得に直接関係するものである事を明確に説明できる文書を準備しておくこと。

2.本社費の配賦方法が明確であり、本社及び支店の会計方針としても記載されていること。

3.上記2.に基づいて計算された配賦額の算定データが残されていること。